戻る

 

熱中症について

 

1 体温の正常値

  体温は身体の部位により多少の差異があり、体表面の温度は著明に環境温によって変化する。体温とは、厳密には深部体温を指し、体表面末梢温と区別する。  体温は健常人で安静を保っていても1℃以内の日内変動があり、早朝が最も低く、午後から夕方に最も高い値を示す。さらに外界温度の変化、精神的興奮、筋運動、食物摂取などによっても、生理学的に変化をきたす。体温は深部温で37.0℃未満を正常とし、37℃を超えるとき発熱という。37.0〜37.9℃の発熱を微熱、38.0〜38.9℃を中等度発熱、39.0℃以上を高度発熱と呼ぶ。環境障害や薬物などの外因による著しい高熱を過高熱という。

 

2 体温調節

   ヒトは恒温動物であり、環境温の変化に対応して体温を一定に保つように制御されている。体温調節中枢は熱放散や熱産生の指令を出しているが、この中枢自 体が体温(血液の温度)のセンサー機能も果たしている。その中枢としての機能はおもに視床下部に存在する。皮膚で感じる外界の温度も感覚神経を介してここ に伝えられる。体温調節中枢はセットポイントと呼ばれる基準値をもっていて、体温がそれを超えれば熱放散反応を、それ以下になれば熱産生反応を起こす。そのような反応はからだの中心部、とくに脳の温度を一定に保つためである。熱放散反応には、放射、伝導、対流、起動からの放散、不感蒸散、汗による気化熱の放散などがある。熱産生の必要なときには、皮膚から熱を奪われないように、皮膚の血管は収縮する。それで不十分なときは甲状腺ホルモンの分泌、交感神経の刺激による褐色 脂肪の燃焼など、非ふるえ熱産生としてまとめられるさまざまな反応を起こす。最後に筋肉のふるえにより熱産生を起こす。

 

3 熱中症

  暑さや熱による生体の障害は、「熱中症」と総称される。これは体温上昇を伴わない「日射病」、「熱痙攣」と著明な体温上昇を伴う「熱疲労」、「熱射病」に分類される。体温上昇がなければ、相対的あるいは絶対的な循環血液量の減少とナトリウム欠乏性脱水であることが多く、予後も良好である。体温上昇が著明であれば、循環血液量の減少やナトリウム欠乏性脱水の程度が強く、うつ熱・体温調節障害による多臓器障害を合併し、予後も不良なことが多い。

 

4 日射病

  炎天下で長時間いたり、運動したりすると発症する。頭部、頸部が直射日光で照らされている場合が多い。直射日光による皮膚の血管拡張や、運動による筋への血流増加が、相対的な血管内の循環血液量の不足をきたす。一種の循環失調である。めまい、嘔気、嘔吐、脱力などとともに、皮膚は発汗が著明でじっとりと冷たく、皮膚温は正常かむしろ低くなっている。意識が清明であれば涼しいところで安静臥床させ、水と電解質を補給する。

 

5 熱痙攣 

   高温多湿な環境で作業や運動をし、多量の発汗があるにもかかわらず、水だけを補給していた場合に発症しやすい。多量の発汗による電解質喪失性の脱水が病 態の中心である。ナトリウム欠乏性の脱水により筋肉の興奮性が亢進し、筋肉の痛みを伴う攣縮を起こす。頭痛、めまい、嘔気、嘔吐のほか身体各部の有痛性の 筋攣縮がみられる。体温は、正常か軽度上昇し、皮膚は蒼白で温かく、発汗がある。二次性の過呼吸や循環血液量減少による血圧低下、頻脈がみられることもある。まれに、筋崩壊によるミオグロビン尿、不穏、意識障害を伴うこともある。日射病の場合と同様の処置を行う。

 

6 熱疲労

  熱射病の前段階と考えられる状態で放置すれば熱射病に移行する。高温多湿の環境で、多量の発汗による電解質喪失と脱水、高温による皮膚血管の拡張、運動に伴う筋肉への血流増加などにより、循環不全となる。熱射病と異なって循環不全が病態の中心である。初期に全身倦怠、頭痛、めまいを呈し、ついで血圧低下、頻脈、興奮、軽度意識障害を呈する。皮膚は蒼白で冷たいが、発汗がある。体温は上昇するが40℃以下である。

 

7 熱射病

  熱疲労と同様に、高温多湿な環境下で作業や運動をしたときに熱放散が不十分になると発症する。熱産生が熱放散を上回ると急速に体温が上昇する。うつ熱状態が進行すると、視床下部の体温調節中枢も障害され、悪循環を形成して過高熱状態となる。41℃で痙攣が現れ、42〜43℃では器質的病変や細胞破壊が生じる。このような過高熱状態が持続すれば、脳、肝、心、肺、腎などに重篤な障害が出現し、多臓器不全の状態に陥る。   当初は著しい発汗がみられ、次第に口渇、頭痛、嘔気、全身倦怠を訴え、ついで発汗は停止し、皮膚は乾燥・紅潮して熱くなる。意識障害の程度は強く、昏睡、痙攣をきたす。体表面の冷却、バイタルサインのチェック、体液量補正を行い早急に医療機関に搬送する。予後は不良である。

(出典 救急救命士標準テキスト)

 

戻る