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人工呼吸は有効?

 

  空気中には酸素が20.93%(約21%)含まれています。二酸化炭素は0.03%で実際上はほぼ0%と考えてよい。窒素は約79%とされています。

  一般に種々の気体が混在しているとき、それぞれの気体の分圧は、それぞれの濃度に比例します。したがって、酸素の分圧は全体の圧力の約21%ということになります。ただし、ここで全体の圧というとき、水蒸気は除く決まりになっています。

  全体の気圧が760mmHgのとき、全く水蒸気を含まない空気の酸素分圧は 760×0.21=160mmHgとなります。ところが、吸気として上気道に入った空気は、すぐに体温(37.0℃)で水蒸気飽和されます。体温での飽和水蒸気は、47mmHgであるので、吸入気酸素分圧は(760-47)×0.21=150mmHgとなります。

  一般に吸気ガス分圧という場合は、上気道内のガス(すなわち水蒸気で飽和された気体)の分圧を意味します。肺胞気酸素分圧=(吸入気酸素分圧)−(動脈血二酸化炭素分圧)/0.8二酸化炭素分圧は正常では40mmHgなので、肺胞気酸素分圧は100mmHgとなります。

  肺胞気と動脈血の酸素分圧との間には、正常でも数mmHgの差があるので、動脈血では96〜98mmHgとなります。ここからが核心部となります。私たちの呼気中には酸素が17%残っています。ですから、先ほどの肺胞気酸素分圧の式に数値を代入してみると、答えは 71mmHgとなります。肺胞気と動脈血の差を引いても60mmHg以上となるわけです。動脈血酸素分圧60mmHg以下の状態を呼吸不全といいますから、なんとかクリアーしているようです。

  また、心肺停止の傷病者の代謝はほとんど無いわけですから、私たちの呼気による呼吸、人工呼吸は有効であるといえます。この他にも1回の吹き込み量の問題などもありますが、体重あたり10ml吹き込めば生命を維持するには足りるようです。

  どうですか?ちょっと難しいでしょう。受講者に人工呼吸の有効性を説明するのはかなり困難なことと思いますから、「私たちの呼気には、十分な酸素が含まれています。」くらいに止めておいたほうが無難です。

(出典 救急救命士標準テキスト改訂第5版p254-257)

 

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